NPBまでの道のり

作家は、近年インド、シリア、イランに渡り、地元作家と交流する中で日本人としてのアイデンティテイを求められる機会が何度もあり、初期の作品作りから続く万物の「はかなさ」を表現してきた自分の作品が極めて日本的だと説明しました。はかない恋、はかない命、はかない人間の活動等を題材にした作品です。
そのコンセプトを、"Fragile Art" と呼んでいます。
そのコンセプトに則って、「芸術家の作品さえもはかない」ということを暗示し、消し去ることを前提とした Bath Room で制作する New Painting in Bathroom (NPB) という手法に行きつきました。
この発想は2004年のインドでの制作に始まります。モノがないインドの田舎町でタイル床に日本から持参した墨と色鉛筆、水彩絵の具をつかって画を描き写真に撮り、後日これをコラージュ作品 Fig.8 としました。
Fig.8 "Chicken in Kitchen"
(42×60cm, mixed media、
NPB/Bath Paintingの起源となる作品)

NPB/Bath Painting のスタイルが固まったのは2008年8月のイラン滞在時です。面白いもので、それは、現在の職を辞して2009年からプロの作家として再スタートしようと考えた2008年春の決意の直後のことでした。これは神からの贈り物だと思いました。それまでの悶々とした悩みの跡に、突然NPBの手法が届けられた感じです。
Bath Room は汚れと疲れをそぎ落とすマイナスの行為があって、同時に化粧し身を飾るプラスの行為とともに気持ちがプラスになるすてきな場所です。そこに墨や水彩画でタイルや陶磁器の上にドローイングし、最後はいさぎよく水で流すという行為を繰り返しました。プラスとマイナスの行為の後、Bath Room にアートの痕跡は一切残りません。
Bath Room でドローイングと消去を繰り返し行い、Fragile な痕跡をカメラで記録する行為がNPBです。技術的には、支持体としてのタイル壁や床、洗面台や便器のセラミックの表面の状態と水のコントロールが決め手になってテクスチャーが出来上がります。NPBは水のアートであり、記録のアートです。記録された画像データから、帰国後デジタルプリントによって作品を再現します。作品は、Bath Room ではかなく消滅しますが、現代のデジタル技術によって作品は版画※として蘇ります。